産卵床調査―高橋編― 2018年11月10日 産卵床が造成されてから10日後の11月10日、高橋農学博士によって産卵床調査が行われた。

▲シュノーケリングしながらアユの餌にとなる付着藻類のハミ跡や、産卵の様子を確認した。写真からも河水の透視度が低いことがうかがえる。(この日の上流の船明の透視度は約51cm)河床の礫にはハミ跡が見られたが、産卵の形跡は確認されなかった。

は産卵が確認された調査地点。 は産卵が確認されなかった調査地点。衛星写真は2018年10月撮影。

▲調査には高橋農学博士の他、天竜川漁協の谷髙事務局長が同行した。

この日は、下流の掛塚橋上流約1km付近の右岸側の瀬から調査を開始。右岸側の早瀬のかなり流速が速いポイントで最初の産卵が確認された。この他、国道1号線の上流約500m右岸側にある、所々に形成されていた流速の速い筋状の早い流れでも産卵を確認。他の調査地点ではハミ跡は見つかったものの産卵の形跡が見られなかったことから、高橋博士は「この川では速い流速が産卵の大きな条件である」と推測する。それは「十分な流速が得られないとすぐに泥の付着が始まり、卵を産める条件が整わない」から。清潔なところで子供を生みたいのは人間もアユも同じなのだ。
今回造成した産卵床でも、ハミ跡は見られたものの産卵の形跡が確認できなかったのは、産卵床造成時のトラブルによる地形などの形状の制約があり、その結果、「河床勾配が緩すぎて期待した流速が得られなかった」ことが大きく影響していると思われる。

▲アユの産卵の有無を確認するため、川の中央を超えていく。遠くにJR東海道線が走る。

実は、偶然発見された一例を除いて、天竜川では過去に「その流量に見合う規模(1,000㎡以上)の産卵場が確認されたことがない」(高橋博士)。その一例は水深1.5m程度の深瀬だったことから、「天竜川ではもともと浅瀬で産卵することが少ないのでは」と推測されていた。今回の、対象域のほぼすべての瀬の調査でもその事実が裏付けされたことになるが、ただ、今年の場合、洪水や長く続いた悪天候の影響で、川の流れや砂州の形状などが大きく変わった影響が想像以上に大きかったことも考えられる。
このような状況の中、「放流された親アユが、浅瀬でどの程度産卵するか」を確認するために行われたのが、今回の産卵床造成実験なのである。

▲例年であれば産卵が確認できたポイントでも今年は親アユのハミ跡も少ない。ある程度は予想できたものの、落胆の表情は隠せない。

▲今年の夏以降の天竜川は長期に渡る悪天候の影響で濁っていることが多く、アユにとっては厳しい生活環境だった。