1月11日は「川の日」。

ということで、天竜川天然資源再生連絡会は浜松の市民団体「トランジションタウン浜松」主催の「映画&トークイベント」に招待されました。

※トランジションタウン浜松…環境に配慮しつつ、地域で楽しくつながり、自立した地方市民を目指す活動をしている市民団体。

上左:映画上映会場のシネマイーラ浜松 上右:ダムネーションのポスター

はじめに…

金澤真生子 トランジションタウン浜松 映画担当

今回上映した、「ダムネーション」という映画は、パタゴニアというアウトドアメーカーが制作した、古くなったり、必要が無くなって本来の使われ方がされていない打ち捨てられたダムを破壊して川を元に戻すという、アメリカのドキュメンタリー映画です。天竜川には諏訪湖から数えるとたくさんのダムがあります。そのため、堆砂や海岸線の後退、アユの生態環境などの問題を抱える一方で、かつて暴れ天竜と言われていた天竜川の治水や、発電という視点からもダムは重要な役割を果たしています。ダムは全て悪いものという考えではなく、今の天竜川とダムの現状をまずは学んで伝えようと、このトークショーを企画しました。

平野國行 天竜川漁協組合長

映画は不要になったダムを壊そうというメッセージでしたが、(天竜川では)飲み水や農業用水、工業用水、発電などを考えると今すぐ壊そうというようなことではなく、今あるものを利用しながらどう環境を整えるかが大事ではないかと思いました。

アユの数が減っているのも確かです。アユは難しい魚で、仔魚流下数(仔魚が海へ下っていく数)が多かったからといって翌年の遡上が多くなるものではありません。アユは海で過ごす時間も長いので、いろいろな条件が重なりそれらにも左右されるんです。流下数は多かったとしても、温暖化の影響による降雨が多い近年では川が汚れてしまい漁獲量に大きな影響を与えています。

『天竜川には天然アユが似合う』という考えの下、天然アユをどんどん再生させていかなければならないと思っています。そのためには、秋に親魚が25万匹以上いなくてはならないと考えていますが、資源の減少が顕著です。そこで、現在、非常に野性味の残る『F1(雑種第一代)』の種苗*作りに力を入れています。天竜川水系の他漁協とも連携して、ダム上流域の天竜川にもF1が放流できればと取り組んでいます。期待してください。
*『種苗』…水産物の繁殖・養殖に用いられる卵・稚魚のこと

谷髙弘記 天竜川漁協事務局長

漁協は漁業権魚種9種の魚に関して県から許可をいただいている反面、『この魚はこれだけ増殖しなさい』と義務が課されています。映画ではサケの養殖が否定的に紹介されていましたが、義務を果たすため養殖したものを放流するということは主な増殖手法となっているのが現状です。ただ、天竜川のような大きな川になるとその放流効果が表れにくいので、産卵床の造成などを行ない、自然の魚を増やすことにも取り組んでいます。

船明ダムには魚道が設置されていて、アユなどが遡上できるようになっています。しかし、遡上だけで降下(川を下ること)ができません。生態系のサイクルに見合った機能をダムに持たせることも当面の課題となっています。

村上哲生 名古屋女子大学家政学部生活環境学科教授

ダムは川の連続性を壊します。そのため水が濁ったり、水温が変わったり、動物の行き来が遮られたりします。その反面、これらの弊害を改善させるためにさまざまな努力がなされています。ダムにはいいダムと悪いダムがあります。それらを考えてから撤去するか維持するかを考えるべきです。また、天竜川は天竜川の事情にあわせた管理の仕方があります。最終的には撤去を含めてどう管理していくかを考えるのがいいと思います。

ダムのある現場に行くと、「ダムが壊れないことはわかっているけれど、下に住んでいる者の気持ちを考えてくれ」とよく言われます。ですので、映画で紹介していたダムにひび割れの絵を描くというような、地元の人たちの不安を煽るようなそういうことはやめて欲しいと思うんです。

喜多村雄一 電源開発(株) 茅ヶ崎研究所部長(河川環境技術)

「天竜川天然資源再生連絡会」は立場を超えて環境改善を議論していこうと天竜川漁協さん、漁協さんが選ばれた専門家の先生がたを交えて3年前に発足しました。その中に当時、川辺川ダムの環境影響について関心の高い村上先生がいらっしゃったので少々心配だったのですが、蓋を開けてみればざっくばらんに話ができるだけでなく、昨年の国際的な大ダム会議で二人で論文の提出ができるようにまでなれるとは思ってもいませんでした。平行線のままではなく、どこかで踏み込まないとお互いがわかりあえないと思います。これからも続けていく意義のある活動ですし、こうした活動がうまくいけば全国の河川に与える影響はとても大きいと思っています。

将来的にはダムネーションの映画のようにダムを壊すということが、今後、出てくるのだろうと思います。一方で、それには大変な費用がかかりますし、また新たにCO2を出してしまうことにもなりますので、今回の映画はダムのあり方をみんなが考えるいい機会になるのではと思います。ダムは悪者ではなくて、もちろんいいところも当然あるわけですから、ゼロか1、どっちがいいとか悪いではなく、そういうところを見極めてみんなで議論をして、関係する人たちが納得した上で対応していくことが大事だと思います。

戸田三津夫 (静岡大学大学院工学研究科准教授/特別参加)

映画の中でダムを破壊して黒い泥が一斉に吹き出すシーンがありましたが、あれはないだろうと思いました。かつて日本の「出し平(だしだいら)ダム」(富山)で1回ヘドロを放出したら下流の富山湾で大きな漁業被害が出たこともあって、現在、日本ではヘドロを放出するようなやり方はストップされています。アメリカは自国で石油やシェールガスを自給できるので、水力発電が減っても影響がないという事情があるんでしょうね。

佐久間ダムはいくつかある日本のダムの中でも、うまくやっていけばすごく働くダムになると思います。そのためにも佐久間ダム湖の堆砂対策は早急に取り組まなければならない問題だと考えています。

トーク会場には約70人ほどの人たちが集まり、司会者とパネラーのやりとりに続いていろいろな質問が飛び出しました。その一部を紹介します。

ダムの寿命は何年ですか? 佐久間さんも還暦だし、日本中そこらでそろそろ耐用年数に近づいてくるダムが出てくるのではと思うと、そろそろ何かしらの手を打たなければと思うのです。何か考えられているのですか?

ダムは、竣工してから100年持つように考えられています。ただ、まだ100年を超えているダムが少ないので100年を超えたらどうなるか、どうするかという答えはまだきちんと出ていません。もちろん、造ってそのままにしておいていいわけはなく、やはりきちんと管理をして対処をしていくことでダムの価値も上がっていくんだと思います。
佐久間の場合、ダムが造られて現在60年。では、あと40年しかないかというとそうではなくて、安心して欲しいのは、ダムはきちんと管理・保全をしながら使っていけば150年、200年と使っていけるものだということです。

将来的なダムの存続に関して、将来を読み通すのは難しいところがあります。現在でさえも、100年前、50年前とは社会環境が変わってきていることを考えると、将来、ダムのあり方も、それにあわせてどんどん変えていかなくてはならないでしょう。ですから、今日のダムネーションの映画などをきっかけに少しずつでも考えていくということが大事だと思います。

〔喜多村雄一/電源開発(株) 茅ヶ崎研究所部長(河川環境技術)〕