アユの友釣り奮闘記―リベンジ編―

釣りの世界ではアユの友釣りは非常に面白く、「ヘラブナ釣り」と双璧をなす奥の深いものと言われている。では、その“奥深さ”とは何か? それは川と魚を科学的に捉え、そこに自分の知恵と工夫=仕掛けと釣り方がどこまで通用するかということではないだろうか。今回のリベンジ編は、プロの技から知る「釣りの科学」の巻である。そのこだわりの世界には、ビギナーズ・ラックという偶然は存在しない。

道具の吟味と選び方について教わる。経験に裏打ちされた興味深い内容である。

前回、バラしまくった(逃がしまくった)私の惨状を見かねた天竜川漁協の皆さんの全面バックアップで、再度の友釣り挑戦と相成ったわけだが、皆さんそれぞれ友釣りのベテランであり一家言もった釣り天狗である。その知識と経験は並大抵のものではない。

まずは、出発前の談笑からそのレクチャーは始まったのだが、基礎知識はともかく、皆さん口を揃えておっしゃるのは「経験に勝るものはなし」「自分でコツをつかむしかない」という究極のアドバイスだった(笑)。

しかし、それなりに釣り経験のあるレポーターとしては、その言葉の真意は理解できたつもりであるし、同じ釣り好きとしての大先輩方の暖かい心根はよく分かった。それだけで「友釣りは面白い」と思ってしまうのである。

こうなるともう、気分だけはいっぱしの友釣り師である(耳年増という)。気合い十分、かえって自分で釣りを難しくして、その深みにはまっていくのだった。

友釣りで最も重要な事は、おとりアユを“どれだけ自由自在に泳がせるか”ということである。だから、アユのいそうな場所におとりアユを入れてやり、そこで自由に泳がせるようにするのだが、これが“どういう事なのか”と理解するには、竿に伝わってくる抵抗や振動が頼りであり、何度も繰り返してその感覚を確認していくしかないのだ。

名人の教えもまさにその点にあり、熟達すれば竿の感触から水中で泳ぐおとりアユの様子が分かるようになるという。結果論で言えば、魚が釣れる事によってその感覚が理解できるのだが、そこに行き着く姿は、川の中の求道者そのものである(笑)。

指南役は前回に引き続き高井名人。
川の流れに対する竿の角度やその動かし方を中心に伝授される。名人は「これまで他人に教えた経験はない」と言うから、レポーターが名誉ある一番弟子である。
名人の仕掛けには“背がけ”の針が付く。おとりを川底で泳がせるには必須の装備である。

川の中で“竿修行”を続けるも、一向にアタリがない。しばらく雨が降らなかったため、水は澄んでいるが晩夏の残暑で27℃程度まで水温が上がっており、アユの活性が落ちていたのは事実だが(腕がないのも事実だが)、それにしても…そこで試しに名人の道具を使ってみることになった。

いや驚きました。竿の柔らかさ、仕掛けの繊細さと、既製の道具とはまったく感触が違うのだ。竿を握った瞬間からすべてが軽く、不自然な抵抗を感じる事なくおとりアユを動かせる。ここで、糸がふけて(たるんで)おとりアユが好き勝手に泳いでいるという感覚を実感できたのである。

そして、0.1ミリ程度のほんの僅かな糸の太さやバランスの違いが、速い流れの中では大きな抵抗になる。そういう細かい不具合や誤差の積み重ねが、手元に伝わる感触を鈍らせている事が名人の道具を使って理解できた。名人の仕掛けは、水の流れや川の地形、アユという魚の性質を分析・理解した上で、最適にセットアップがなされているのである。

“科学的”と言ったのはこの事で、釣りとは魚とその生息環境を理解し、そこに適した仕掛けによって餌をどう到達させるかがすべてであり、“なわばり争い”という魚の習性を利用した友釣りはその最たるものだと思う。その最適な攻略法を編み出す友釣りの名人は、川の科学者でもあるのだ。

こうして名人の道具を使い、水中の様子に想いを馳せながらおとりアユを泳がせる事しばし。「アユがかかればドンッとくるよ」という言葉通り、そのドンッは突然やってきた。

おとりの泳がせる名人の動きには、道具の精度も大きく関わっている。川面の波や渦を見て、アユのついている石の場所を推測する事も重要。
待ちに待った瞬間。上がおとりで、下がかかった魚。まさに逃がした魚は大きい。

ずいぶんおとりが川下まで泳いで行ったな…と、思った瞬間だった。前回は反射的に合わせ(竿をあおって針がかりさせること)てしまい、仕掛けを切ってしまったので、今回は努めて冷静に竿を立ててみれば、川面には紛うことなきアユの大きな魚体がきらめく。竿を通じて感じるその重さは感動的ですらあった。

思わず名人も走りよって来て、取り込みを手伝ってくれる。が、しかし。手元まで魚を寄せて玉網ですくおうとした瞬間、魚は玉網の枠に当たって見事にバレてしまった。名人の「ありゃ〜」という落胆の声がむなしく川面に響き渡る…残念至極とはまさにこの事で、これがあるから最後まで油断してはいけないのだ(名人ごめんなさい)。

結局、夕方近いこともあって、その後しばらくしてこの日は竿をたたんだ。そういうわけで、リベンジ編も不完全燃焼に終わってしまったのだが、意外に“友釣りをした”という満足感はあった。

どうしてかというと、初心者が何も考えないで釣ると、(いわゆるビギナーズラックで)魚が勝手に釣れてくれたりするが、今回のように“釣ろう”という明確な意志を持った場合は、なかなか釣れない事が多いからだ。今回も初めはまったく釣れる気配もなかったわけで、それは目的に対しての手段(つまり道具等)が合ってないのが理由である。

しかし、名人の(適正な)道具を使うことで初めて、まともな“友釣り”の世界を味わう事ができ、バラしはしたもののアユを釣る事もできた。この実感や手応えは、非常にマズいと思う。なぜなら、凝り性のレポーターとしては、友釣りの深みにハマりそうな予感がするからである(笑)。多くの人も、こうして友釣りにハマっていくのだろう。

バラした直後にもう一度アタリが。残念ながら釣れたのはハヤ(ウグイ)だった。

今回は名人の教えや道具あってこそなので、今後は自分なりの道具と仕掛けを揃えていく事が課題になるだろう…何しろアユは美しい魚だし、食べても美味しいのだ。これから落ちアユのシーズン、天竜川は12月までアユ釣りができるというのはもう、誘惑ではなく天啓以外なにものでもないわけで、今度こそ確かな釣果をご報告できればと思う。

<お詫び>
この取材後に台風18号に見舞われ、川の状態の回復を待っていたのですがそれも束の間、台風27号の影響で年内のアユ釣りは非常に厳しくなりました。この企画は新たなメンバーを加え、来年に続く予定です。ご期待ください。